7)世界におけるフッ化物の応用
(1)世界における水道水フロリデーション(水道水フッ化物濃度調整、フロリデーション、communal water fluoridation)
表12は、英国水道水フロリデーション協会の報告による、世界の水道水フロリデーションをしている国とそれぞれの国の全人口に対するフロリデーション人口の割合を示したものです。香港、シンガポールの100%実施率をはじめ、コロンビア、アイルランド、マレーシア、オーストラリア、ニュージーランド、アメリカ合衆国、キリバスなどではその大半が、イスラエル、チリ、カナダ、ブラジル、フィージー、ギアナ、リビア、アルゼンチンなどでは国民の20〜50%の実施率、近隣の国では中国の16%、韓国の15%が上げられています。
表13 世界の水道水フロリデーション 数値は全人口に対する割合(%) | |||||||||
|
|||||||||
英国水道水フロリデーション協会 2000年 |
(2)世界におけるフッ化物の応用の推移
表13 世界のフッ化物利用の推移(概数) | ||||||||
|
||||||||
British Dental Journal, 191 (9) : 10, 2001 |
表13は、英国歯科医師会(2001年)の報告から最近の代表的な各種フッ化物の利用状況について、1990年と2000年との10年間の推移をみたものです。これによると、水道水フロリデーションは1990年の2億1,000万人から3億人へと43%の増加を示しています。同じ時期にフッ化物添加食塩は400万人から9,700万人へと24倍の大幅な増加、フッ化物洗口は2,000万人から1億人へと5倍の増加、フッ化物配合歯磨剤は4億5,000万人から15億人へと3.3倍の増加など、その他、フッ化物添加ミルク、フッ化物歯面塗布ともども、フッ化物錠を除いては増加しています。今日に至っても、世界中で水道水フロリデーションをはじめフッ化物の応用について、その普及に努めていることが分かります。
なお、フッ化物錠については、フッ化物応用法では唯一普及にかげりが見られています。その理由として考えられるのは、これが全身応用であるにもかかわらず水道水フロリデーション地域で飲用されたり、処方が守られずに1週間分を一度に飲用したり、子供が多量に食べてしまって急性中毒事故を起こすなど、一般の人に服用がまかされた形での処方には無理があるものと考えられます。なお、現在、わが国ではフッ化物錠の処方はなされていません。
(3)水道水フロリデーションはWHO(世界保健機関)およびFDI(世界歯科連盟)が承認・推進している
1945年、米国で水道水フロリデーションが開始され、1950年代後半から60年代にかけて飲料水中のフッ化物濃度を約1 ppmに調整した都市の中学生のむし歯罹患状態が、天然の同程度のフッ化物濃度給水地区とほぼ同レベルになることが明らかになりました。これを受けて、世界の専門機関から水道水フロリデーションを推奨する決議文と声明文が相次いで出されました。
1964年11月に米国カリフォルニア州サンフランシスコで開催された第52回FDI(国際歯科連盟)年次総会において水道水フロリデーションに関する決議が採択されました。
FDI(世界歯科連盟)の決議文(1964年)
1.むし歯は全身の健康を阻害し、疼痛を誘発して、全世界の大多数が罹患する疾病である。
1.WHO、各国政府及び科学専門諸団体より招集された専門委員会によって、むし歯抑制手段としての水道水フロリデーションの安全性、効果及び実用性に関する科学的根拠が検討され、承認された。
1.過去30年間に亘る経年的観察研究の結果、水道水フロリデーションがむし歯抑制に対して最も効果的かつ、廉価な方法であることが確認された。
従って以下の如くに決議する。
「水道水フロリデーションはむし歯の発生を安全かつ経済的に抑制する手段として、現状においては最も有効な公衆衛生学的施策であることをすべての関係当局に推薦すべきことを決議する。」
水道水フロリデーションを薦めるWHOからの最初の勧告は1969年に出されました。次いで、WHO第28回総会(1975年)で地域社会のむし歯予防策における水道水フロリデーションの推進勧告が出され、さらにWHO第31回総会(1978年)においては、「安全で安価、かつ効果のあるむし歯予防方法が存在すること、とくに広範に実施されている水道水中のフッ化物の至適濃度調整による方法、さもなければ、他の予防の薬剤や処置と同様に、全身的かつ局所的にフッ化物を使用する別の方法があることを認識すること」と述べ、第一に「口腔疾患の予防と管理に対する企画の中に、とき・ところにかかわらず水道水フロリデーションを用いるよう参加国に勧告する」と決議しました。
また、1994年に発行された「フッ化物と口腔保健」(WHO専門委員会報告書)の第7章に水道水フロリデーションについての記載があり、結論として以下の4点があげられています。
「フッ化物と口腔保健」(WHO専門委員会報告書)
1.地域における水道水のフロリデーションは安全かつ経済的であり、社会的に受け入れられ、実施可能なところでは導入と継続が望まれる。
2.至適フッ化物濃度は0.5〜1.0mg/l(0.5〜1.0 ppm)の範囲である。
3.水道水フロリデーションのシステムの技術的な操作については、毎日の定期的な記録とモニターが必要とされる。
4.むし歯と歯のフッ素症に関する定期的な調査の実施が望まれる。
表14は、水道水フロリデーションを推奨している保健に関係する主な専門団体です。このように、むし歯予防のための水道水フロリデーションはWHO(世界保健機関)をはじめ、欧米の医学歯学薬学系その他の関連機関が推進しており、上記の諸団体を含めて世界では150もの専門機関が推奨しています。
表14 水道水フッ化物調整を推奨する主な団体 | |||
|