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B.フッ化物応用に関するQ&A

Q&A 基礎知識

■Q:お茶にはフッ化物がたくさん含まれているそうですが、お茶を飲んでいればむし歯予防になりますか。

■A:飲むお茶の中には、比較的多くのフッ化物が含まれています(0.5〜0.7 ppm)。しかし、通常のフッ化物洗口溶液のフッ化物濃度 (225〜900 ppm)と比べると、その濃度は低く、ほとんどむし歯予防効果を期待することはできないでしよう。  水道水フロリデーシヨン(水道水フッ化物濃度調整、フロリデーション、communal water fluoridation)では比較的気温の高い地域では0.7 ppm程度でも十分なむし歯予防効果が得られるのですが、水道水フロリデーシヨンの場合には、直接飲むだけではなく、ご飯を炊くにも、味噌汁をつくるにも、料理にすべて使います。そればかりか、コーラやビールをつくる工場でも使いますので、飲食物すべてにフッ化物が入ることになります。以上のことから、むし歯予防に対してお茶をのむのとフッ化物洗口が違うことや例え同じフッ化物濃度でも水道水フロリデーシヨンとは全く違うことが分かると思います。


■Q:日本はフッ素の多いお茶をよく飲むし、魚や海草などの海産物を多く摂るので、これ以上フッ素を摂ると過剰になることはありませんか。

■A:お茶や海産物にはフッ化物が多いこと、日本人はお茶や海産物を多くとることから、日本人は諸外国に比べて多くのフッ化物を摂取しているのではないかといわれることがあります。しかし、こうしたお茶や海産物を含めて、すべての飲食物からのフッ化物摂取量に関する調査では、日本人がとくに諸外国と比べてフッ化物を多く摂取しているという証拠はありませんでした。
 お茶をたくさん飲む国、ビールをたくさん飲む国、魚を食べる国、肉を主食のように食べる国など、世界は色々です。しかし、ビールにもお茶と同程度、肉にも魚よりは濃度は低いのですが、ちゃんと天然のフッ化物が含まれているのです。


■Q:フッ化物の入った水は魚や他の水棲生物に悪影響を与えませんか。

■A:自然の地表水である河川や湖沼の水のフッ化物濃度は、0.1〜0.4 ppm程度のことが多いのですが、なかには2 ppmを超える高濃度のことがあります。
 また、地下水をくみ上げて水道の水源にしているところも少なくありませんが、井戸水などの地下水のフッ化物濃度は一般に高く数ppmに達することもあります。
 これに対して、小学校等で全校生徒が週1回法(フッ化物濃度900 ppm)でフッ化物洗口をしたときの学校の総排出口でのフッ化物濃度の測定結果があります。それによると、フッ化物濃度の上昇は0.1〜0.2 ppmの範囲でした。また、現在の日本では実施していないのですが、世界の多くの国で実施されている水道水フロリデーションのフッ化物濃度の範囲は 0.7〜1.2 ppmですから、こうしたむし歯予防のためのフッ化物応用による河川や湖沼のフッ化物濃度は、ほとんど変化しないと考えてよいでしょう。そして、こうした水環境の中で魚や他の水棲生物は正常に生きているのです。また、自然の状態で海棲生物が生活している海水のフッ化物濃度は1.3 ppmで安定しています。
 この海水のフッ化物濃度1.3 ppmは先カンブリア紀以降のこの6億年にわたり変化していないのです。この海の中で現在のすべての生物が単細胞から多岐にわたる多細胞の生物群へと進化をしてきたのですが、こうした海の環境がこの地球上すべての生物の進化を支えてきたということは重要な知見です。


■Q:フッ化物洗口にかかる費用はどのくらいですか。

■A:市販のフッ化物洗口剤で個人的に行うときは、ミラノールとオラブリスという製剤があります。1回の使用量で異なりますが、毎日一回行う方法で、経費は年間ではおよそ600〜1,200円、月に50〜100円程度です。学校等において行う集団での実施では、施設、参加者の数、洗口の頻度、使用する器具や洗口剤によって変わりますが、いずれの方法も費用は安く、薬剤師による処方でのフッ化ナトリウム試薬を用いて集団的に行われる週1回法であれば、1人当たリ1 年間の費用はおよそ200円程度で実施可能です。

Q&A 安全性

■Q:宝塚や西宮で社会的な問題となった歯のフッ素症が起きたのは、どうしてでしょうか。

■A:宝塚や西宮で社会的な問題となった歯のフッ素症は、天然に過量のフッ化物が含まれた水を水道水として供給していたために発現したものです。
 歯にみられる白斑には、フッ化物が原因のものと、フッ化物以外のものが原因のものとがあります。フッ化物以外の原因による白斑の1つに、むし歯が原因の脱灰があります。脱灰というのは、歯垢中の糖類に対する口腔細菌の作用で、歯垢中に酸ができて酸性環境になり(pHが低下して)、エナメル質の表面からカルシウムやリン酸が溶け出し、その部分が白くにごって見える現象をいいますが、フッ化物によるむし歯予防が行われている場合、脱灰部はむしろ減少することが知られています。
 いずれにしても、宝塚や西宮の歯のフッ素症問題は、フッ化物によるむし歯予防が原因ではありません。むしろ、もしこの地域で水道水フロリデーション(水道水フッ化物濃度調整)が行われていたらこうした問題は発生しなかったのです。こうした過量のフッ化物を減らして最適なフッ化物濃度に調整することも水道水フロリデーションの役割の1つなのですから。このことからも、自然のままの水が必ずしも安全であるとはいえないことが分かります。


■Q:フッ化物洗口を何年も続けていると「歯くされ病」になることはありませんか。

■A:「歯くされ病」とは、医学的な病名ではなく、特定の地域でみられた風土病の俗称です。その多くは、いわゆる歯のフッ素症のうち審美的に問題のある中等度から重度のものをいうようです。フッ化物洗口で、歯のフッ素症を起こすことはありません。
 水道水フロリデーションされた水を飲んでいる場合、飲んでいる人々の一部(10〜20%)に軽度の歯のフッ素症が発現することがあります。しかし、この軽度の歯のフッ素症は一般の人には普通の健康な歯と見分けが困難な程度のもので、公衆衛生上問題となるようなものではありません。しかし、水道水フロリデーションでは中等度から重度の歯のフッ素症は発現しません。フッ化物洗口は局所応用ですので、歯のフッ素症を起こすことはありません。


■Q:病気によっては、フッ化物洗口やフッ化物歯面塗布を行ってはいけない場合がありますか。

■A:フッ化物は自然にあまねく存在しており、飲食物として日常的に摂取されています。また、フッ化物洗口や歯面塗布のフッ化物量が特に影響を与えることはあリません。
 したがって、病気によってフッ化物洗口や歯面塗布を行ってはいけないということはありません。また、腎臓の病気で透析を行っている場合も、透析に使用する水は水道水をそのまま使用するわけではありませんので、水道水フロリデーションを行っている地域でも問題になったことはありません。


■Q:フッ化物が癌の原因になると聞きましたが、本当ですか。

■A:過去に「フ口リデーションされている地域の人々は癌による死亡率が高い」という報告がありました。しかし、これは米国で調査されたデータを誤って解釈したもので完全に間違いであることが分かりました
 癌などの年齢によって発症率に大きな差があるような病気では、人口の高齢化が進んでいるような場合、これを無視して死亡率(粗死亡率)を比較しても意味をなしません。現在、人口の高齢化が進み、人口構成のなかで老人の割合が高くなっていますので、単純に10万人に何人の死亡というように扱った場合、高齢者の割合が多い地域ほど、また同じ地域でも年々直線的に癌による死亡率は上昇することになります。しかし、比較する年度の年齢構成をある年度を基準にした年齢構成になおして解析する、これを年齢調整死亡率というのですが、こうした正しい解析では癌の死亡率に差はでませんでした。
 また、「フロリデーションされていた地域の子宮がん死亡率が高い」という報告もありましたが、これもデータの採取地域および解析に不備があり、差は確認されませんでした。  米国国立癌研究所や米国疾病コントロールセンター(CDC)を含む専門機関は、フロリデーションと癌とは無関係であるとしています。


■Q:フッ化物は骨に蓄積して障害を生じることはありませんか。

■A:過量なフッ化物の摂取によって骨にフッ化物が蓄積すると、骨フッ素症が生じます。飲料水のフッ化物濃度についていうと、ヒトの骨フッ素症の発現が確認されている最低のフッ化物濃度は、水道水フロリデーションの至適濃度(0.7〜1.2ppm)のおよそ8倍です。
 6〜8 ppmの高濃度フッ化物飲料水を20年以上使用し続けた住民のうち、およそ10%の人に、レントゲン検査によって発見される骨硬化症が発現することが分かっています。自覚症状がでるほどではありませんが、このような飲料水を使用することは、第一にひどい歯のフッ素症(斑状歯)がでますし、骨の健康によくないことは当然です。
  なお、むし歯予防のためのフッ化物利用によって、ヒトの歯や骨以外の組織になんらかの変化や障害が現れたという証拠はありません。


■Q:妊娠中の人がフッ化物を摂取しても胎児に悪影響はありませんか。また、授乳中の母親の母乳についてはどうですか。

■A:水道水フロリデーションによる胎児への悪影響はありません。
 この60年以上にわたって、世界では水道水フロリデーションが実施されてきましたが、胎児への悪影響や母乳への移行による影響に関する報告はまったくありません。
過量のフッ化物についても、仮に母親が過量のフッ化物を一時的に摂取したとしても母親のフッ化物の血中濃度は上昇しますが、これに比較して胎児の血中濃度はほとんど上昇しないのです。母親と胎児は臍帯という細い血管で胎盤を通じて繋がっているだけだからです。この状態では、胎児のほうに母親からフッ化物が移行し始めても、まもなく母親の血中フッ化物濃度は下がってしまうからです。
 また、母親が摂取するフッ化物はあまり母乳中に移行しません。母乳によって哺育される時期は、むしろ丈夫な歯をつくるためには、必要な量のフッ化物が不足しているといえるかもしれません。


■Q:幼稚園でフッ化物洗口をしています。誤って洗口液を全部飲み込んでもだいじょうぶでしょうか。

■A:幼稚園では、原則として4、5歳児を対象に週5回法(フッ化物濃度250 ppmフッ化物溶液を使用)が行われています。フッ化物の急性毒性が発現する量は体重1kg当たり5 mg、不快な症状が発現する量は2 mgとされます。4歳児の平均体重を約16 kgとしたとき、不快症状の発現するフッ化物の量は約32 mgとなリます。一方、週5回法のフッ化物洗口溶液5 m1中のフッ化物量は1.25 mgですから、この量は不快症状の発現するフッ化物量32 mgのおよそ26分の1であり、急性中毒発現量80 mgの64分の1の量に相当します。したがって、幼稚園児など未就学児のフッ化物洗口の安全性がいかに高いかが分かります。しかも、日本ではフッ化物洗口の実施に先立ち、水を用いた練習をしてから実施するようにしています。


■Q:フッ化物の急性中毒量について、体重kgあたりフッ化物2mgと5 mgの根拠となるデータはどんなものですか。

■A:一般に物質が発現する急性中毒量の決定は科学的に困難です。これは、中毒実験は人を対象にはできないし、初期中毒症状は動物実験では判定の仕様がないためです。現実にはたまたま人がある物質を事故等で多量に摂取して急性中毒が発現したときの調査結果から、その中毒量を推定するのです。また、どのような症状をもって中毒と判定するかが、まず問題であり、とくに軽度の症状は科学的に重要な再現性(何度やっても同じ結果がでるか)が得られず、その因果関係の判定は困難なことが多いのです。
 フッ化物の中毒量については、従来、1899年に報告されたBaldwinの最低中毒量2 mg/ kg(体重)の推定値が用いられてきました。フッ化物摂取による急性中毒症状としては、一般に流涎、悪心、嘔吐、腹痛、下痢、痙攣、昏睡などが上げられていますが、これらのほとんどの症状は他の一般にみられる中毒症状と変わりがなく、フッ化物中毒であるとする決め手に乏しいのです。とくに流涎、悪心のレベルでは判定が困難であり、科学的に再現性のある数値は得られません。
 そのため、現在では、1987年に報告された、Whitfordによる推定中毒量(PTD probably toxic dose)が採用されています。このPTDは、医療を必要とするはっきりした中毒症状を表す推定中毒量であり、5mg/kg(体重)以上とするもので、科学的に再現性のある数値として用いられ、米国疾病コントロールセンター(CDC center of diseases control)の支持も得ています。(5mg/kg以下でも軽度の症状は発現することがあり、牛乳の飲用を勧めることはあっても、医療の必要はない程度のもとされます。)


■Q:フッ化物配合歯磨剤とフッ化物洗口の併用は問題ないのですか

■A:フッ化物配合歯磨剤は1,000 ppm以下であり、多くは900〜1,000 ppmの間にあります。すなわち、通常の歯みがき1回の使用量1g中に1 mgのフッ化物を含んでおり、通常の歯みがきでの飲み込み量は、その10%から20%とされ、飲み込み量は0.2mg以下です。一方、フッ化物洗口では、保育園や幼稚園での処方である週5回法では、フッ化物濃度225 ppm、 洗口液量は5 ml、1回の洗口で約1 mgを使用します。通常の洗口での飲み込み量は、その10%から20%とされ、飲み込み量は0.2 mg以下です。したがって、フッ化物洗口をする保育園や幼稚園児の場合、週5日間は毎日0.4 mg以下を摂取することになります。
 下記の表14は、子供の年齢、飲料水フッ化物イオン濃度 (mg/ L)別に見た、国際歯科連盟 (FDI) の推奨による一日あたりのフッ化物推奨投与量 (mg/ day)/を表したものです

表14 国際歯科連盟(FDI)のフッ化物推奨投与量(mg/day)
子供の年齢
飲料水フッ化物イオン濃度 (mg/L)
0.3以下 0.3〜0.7 0.7以上
誕生〜3歳
3歳〜5歳
5歳〜13歳
0.25 0 0
0.50 0.25 0
1.00 0.50 0
FDI 1993年

 日本における通常の飲料水中のフッ化物濃度は0.1 ppm程度であり、上表のように飲料水のフッ化物濃度が0.3 ppm以下の地域の3〜5歳の児童では1日0.5 mgが推奨量であることから考えて、フッ化物洗口とフッ化物配合歯磨剤との併用使用は妥当であるとされるのです。米国など水道水フッ化物濃度適正化が進んでいる地域での、幼児によるフッ化物配合歯磨剤の使用が問題となることがありますが、これは歯磨剤を食べてしまうという問題外の問題なのです。
 小学校での週1回法ではフッ化物洗口のフッ化物濃度は900 ppmであり、飲み込み量は0.9 mg程度になりますが、洗口頻度が週1日ということからして、この場合もフッ化物の総摂取量が過剰になることはないのです。

Q&A 意見

■Q:フッ化物利用に反対論があります。科学的にはどのように考えられますか。

■A:米国歯科医師会が発行している「フロリデーション・ファクツ2005」(財団法人口腔保健協会 Fluoridation facts 2005)によると、これまでの米国におけるこの60年にわたる水道水フロリデーションの歴史のなかで、これまでにだされた数多くの水道水フロリデーションに対する反対意見が、一般に認められた科学によって実証された試しはこれまで一度もない、とのことです。
 次にそれらの反対意見に共通してみられる誤りのいくつかを列記します。
1.不備のあるデータをもとに反対意見が成り立っている。
2.一度否定された内容のことでも、繰り返し意見として発表する。
3.過量な場合や事故などの特殊な場合に起こる危険性を論じる。
4.実際は安全性を証明している論文であっても、その一部だけを引用して危険であるかのような主張をする。
5.癌や毒など、恐怖心を引き起こす言葉を多用する。
6.薬害や公害などと重なるような印象を与えようとする。
7.「絶対安全」など不可能な基準を持ち出して議論する。
 この「絶対安全」の証明は、理論的に全く不可能なのです。フッ化物も他のいかなる物質と同様、どのような対象に対しても、どのような時、条件でも、「絶対安全」であることを立証することは理論的にも不可能なのです。一方、有害性は証明が可能です。したがって、「絶対安全」は可能な限り有害かもしれない事項を科学的に否定することによって成り立っているのです。
 反対意見の本質について、むし歯が減少することを望まない人、むし歯予防のために自分の仕事が増えることを嫌う人などが、そのことを理由に表立って反対できないため、健康に有害であるとする反対論を引き合いに出して、フッ化物応用の導入を止めようとしている、とする意見もあるくらいです。少なくとも、こと、フッ化物の応用に対する有害論からの反対というのは不思議な現象といわなければならないでしょう。


■Q:歯磨きや甘味制限などの基本になる努力をしないで、薬であるフッ化物に安易に頼るのは正しいむし歯予防とはいえないのではないでしょうか。

■A:まず、むし歯予防の基本ですが、(1)プラーク(歯垢)を除去しフッ化物配合歯磨剤を用いる歯みがき、(2)砂糖摂取をコントロールする甘昧の適正な摂取、(3)歯の再石灰化による歯質強化を目的としたフッ化物応用、これら3つを合わせたものが、むし歯予防の基本です。
 しかも、このうちの歯質強化を目的としたフッ化物応用が、科学的に最もむし歯予防効果が立証されている方法であり、学校等をベースとしたフッ化物洗口や地域を対照にした水道水フロリデーション(水道水フッ化物濃度調整)にみられるように公衆衛生特性の最も高い、社会的に見ても重要な方法といえるのです。


■Q:フッ化物応用について学会でも賛否両論があるあいだは、「疑わしきは使用せず」の原則で実施を見合わせるべきである、という意見がありますが。

■A:わが国をはじめ国際的にも学会での学術的な賛否はありません。また、「疑わしきは使用せず」といういい方は、刑事訴訟法の「疑わしきは罰せず」を転用したもので、たんなる語呂合わせであり、原則などというものではないのです。
 しかも、現実的な適用には無理があることはすぐに分かります。反対する人が「絶対安全」を求めて議論をすると、「絶対安全」が理論的に立証不可能である以上、すべてが「疑わしき」ことになってしまうからです。むし歯予防のフッ化物応用については、安全性および効果について疑わしいところはありません。
 わが国のこの分野の専門学会である日本口腔衛生学会も、2002年、「今後のわが国における望ましいフッ化物応用への学術支援」において、21世紀のわが国における国民の口腔保健の向上を図るため、専門学術団体として、フッ化物局所応用ならびに水道水フロリデーションを推奨するとともに、それらへの学術的支援を行うことを表明しました。


■Q:フッ化物は劇薬であると聞きました。使用しても問題はありませんか。

■A:フッ化ナトリウム粉末の製剤は劇薬に指定されています。これは一定量の製剤中のフッ化物の割合が大きい場合に劇薬指定になるのです。しかし、私たちが実際に使用するフッ化物洗口液は劇薬ではなく普通薬です。
 処方どおりに溶解された洗口液(フッ化物イオンとして1 %以下)は、普通薬とされるのです。
 わが国では溶液としての洗口剤は製剤として販売されていませんが、日本以外のほとんどの国では洗口液はスーパーマーケットなどで他の商品と一緒に店頭に並べて販売され、一般の方が自由に購入できるようになっています。


■Q:自分の子どもは年3回のフッ化物歯面塗布をうけており、むし歯はありません。各自が気をつければ、フッ化物洗口に要する保育士の負担が減って、その分よりよい保育を受けることができるのではないでしょうか。

■A:個人的におこなって期待どおりの成果があげられる人もいるでしょうが、きわめてまれな恵まれた人です。多くの人にとっては歯磨きの励行ですら実際には継続が困難であることが多いのです。公衆衛生的思想には人々の健康格差をなくすという崇高な理念があるのです。大切なことは、みんな(地域住民)の健康生活(QOL)の向上を図ることです。
 公衆衛生的なフッ化物応用はこの健康格差をなくすのに最も大きな効果をもたらします。また、フッ化物洗口を学校保健の一環として位置づければ、教育的な支援を受けることができるので、継続的な実施が確実なものとなり、よりむし歯予防の成果をあげることができることは、わが国の経験からも明らかです。


■Q:水道水フロリデーションは個人の自由の権利を侵害するのではないでしょうか。

■A:水道水フロリデーションは地域単位で行う公衆衛生対策ですから、そこに住む住民すべての人々の健康増進を目的に行うのです。したがって、実施にはその地域の議会の承認で始まります。したがって、少なくとも民主主義国家では、私たちには投票行動による議会議員の選択の自由が与えられていることになります。
 今から60年以上前から水道水フロリデーションを進めてきた米国では、個人の自由の権利の侵害をめぐって、以前には少なからぬ訴訟が起こされた経験があります。しかし、現代の米国の司法界では水道水フロリデーションは「公共の福祉を優先する事業」として認められ、この問題に関する、いわゆる「個人の自由」は全米どこの裁判所でも認められていません。

 そもそも私たちは社会生活をしている以上、幾多の制約の中で生活しているのが現実です。それが「公共の福祉」に貢献している事になるということを知っているからです。急いでいるとき私たちは、赤信号でも交差点を渡りたいときがあります。夜中で自動車が全然来ないのに、信号が赤だからといってじっと信号が変わるのを待っているのは日本人だけだ、と以前の全日本サッカーを率いたトルシエ監督がいってましたが、これがお互いの福祉と権利を守る方法なのです。
 現在、世界中のほとんどのところで水道水に塩素が添加されています。ご存知のように水系伝染病の予防のためです。しかし、これを嫌う人はたくさんいます。水道水フロリデーションは自然の模倣ですが、塩素消毒はまったく人口的な方法で、最近では取水する水が河川の汚染などで汚れ、より多くの塩素を使用しなければならなくなってきています。においがあったり、金魚などに塩素をなくして使用するなどの注意が必要だからです。
 しかし、塩素消毒は必要なのです。なかには飲み水には湯冷ましを使えばよいという人がいます。しかし、これも蛇口まで一定量の塩素がきているからいえることで、そうでなかったら、湯冷ましを入れる容器をはじめ、調理器からすべての食器にいたるまで、湯冷ましを使用するのでしょうか。明らかに不可能です。経済的になりたたないばかりか、炭酸ガス増加に拍車をかけるばかりか、そもそも市民すべての人々にできることではないのです。
 水道水フロリデーションについても、これを嫌う人の権利も、これによって健康増進を図りたい人の権利もあるわけです。こうした場合、それによってある一部の人の健康を侵害するようなことがあれば論外ですが、水道水フロリデーションはどのような個人にも健康上の障害を与えることはないのです。それどころか、生涯を通じてみれば、むし歯はほとんどすべての人々が罹り、苦痛をあたえ、心身に障害を与え、高齢者のQOLに大きなダメージをあたえている疾病であり、きわめて多額な国民医療費を要する、社会的な、公衆衛生的な対策を講じる必要がある疾患なのです。
 ある国際学会の折、日本では学校でのフッ化物洗口に反対する人がいるといいましたら、よその国の研究者のほとんどが怪訝な顔をするのです。フッ化物洗口の反対は日本以外のどの国にも経験がないからです。水道水フロリデーションならいざしらず、フッ化物洗口は選択の自由があるのではないかというのです。日本では、学校でこれを実施するとき、父兄に対する説明会をした後で父兄の同意をとって行なっています。公衆衛生対策として地域保健の一環として行う以上、できるだけ皆さんに参加していただくよう、事前に講演会や説明会を開催して理解を求めるのが普通ですが、基本的には、フッ化物洗口に参加するしないは個人の自由なのです。もうお分かりかと思いますが、フッ化物洗口に参加したくない場合には致し方ありませんが、参加したい人の権利を侵害することは許されないのではないでしょうか。

福岡歯科大学名誉教授  境 脩

 執筆にあたり、多くの成書ならびに文献を参考にしましたが、とくに、学建書院「―21世紀の健康づくりとむし歯予防―わかりやすいフッ素の応用とすすめかた」および口腔保健協会「フッ化物応用と健康―う蝕予防効果と安全性―」から、図表を含め多くを参照させていただきました。

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